Sep. Week 2, 2016
★ " Authority Marketing? "
習い事の先生に物を買わされて困っています


秋山様、
このコーナーとキューブさんのウェブサイトのファンで、もう10年近く読んでいます。 クォリティの高いコンテンツを持続していらっしゃることもさることながら、このコーナーのアドバイスの素晴らしさに いつも感動したり、共鳴したりしています。

私もご相談をさせてください。
私はある習い事をしています。その先生は生徒さんが沢山居て、私はお友達に紹介されて、その習い事を始めることにしました。 お教室はとても興味深くて、そこに来ている方達も良い人が多いのですが、お教室の後半が即売会のようになって、 欲しくないものを買わされてしまうことがあって困っています。
先生がお教室で使っている道具を売っている場合もありますが、私が嫌なのは先生がつけているジュエリーとか、先生のお友達が作っているクラフトや、 化粧品とか、お教室の内容と全く関係が無いものを売りつけられることです。 それと先生のお友達の個展に行ってほしいというようなリクエストもあります。
最初は先生に勧められると、何となく買うべきなのかな?と思って買っていたのですが、 特に欲しいものでないものを売られることが多くて、段々とその即売会の雰囲気が重荷になってきました。 というのも先生のお取り巻きになっているような生徒さんが そこで売り子さんみたいになって、「貴方にはこれが似合いそう」といって薦めてきて、 ちょっと顔に合わせてみると 「すっごく似合う!」などと言って、プレッシャーを掛けて来るので、断るのがとても難しいんです。

そういうお取り巻きになっている生徒さんは、先生とも個人的に親しくて、先生のお宅のパーティーに呼ばれたりするのを自慢していて、 「先生に優遇されたかったら、売り上げに貢献しないと」というようなことをはっきり言います。 私を紹介してくれたお友達も 先生の顔を立てて 時々はお買い物をしていると言いますが、友達も お教室が即売会みたいになるのは嫌がっいて、時々早く逃げ帰るといっています。 でも他の生徒さんの中には 「お教室に来ると お買い物も一緒にできて嬉しいわ!」などとウソか本当か分からないようなことを言う人も居て、皆さんがどう思っているかは分かりません。

有閑マダム風な人ほどお教室で物を買っているように見えるので、そういう人はお金に困っていないのかもしれませんが、 お教室代の他に 毎週のように何かを買わされて、その後お友達とお茶を飲んで帰ったりすると 結構な出費になります。 少し前に計算してみたら、既にお買い物だけで10万円近く使っていることに気付いて、 その中には自分では使わないもので、人にあげてしまったものとか、すぐに壊れてしまったアクセサリーとか、読んでいない本なども含まれていて、 反省して 何とかしなければと思いました。
ただお買い物をしなければ良いだけなのですが、それが何故かできません。私は特に先生に取り入る必要などないのに、欲しくないものでも 「このくらいのお値段なら構わないかな」と思って買ってしまって、後から後悔ばかりしています。
どうしたら、買い物をしない強い意思が持てるでしょうか?お店でショッピングをする時は、お金がない時は我慢したり、 無駄な買い物になりそうだったら 買わずにお店を出てくることが出来るのですが、お教室だとそれが上手く出来ません。 何かアドバイスをお願いできたら嬉しいです。
最後になりましたが、これからもずっとこちらのサイトを応援しています。 お身体に気をつけて頑張ってください。

- N -




Nさんの先生が行っているのは、アメリカのマーケティングの世界で”オーソリティ・マーケティング”と呼ばれるものです。
アメリカのマーケティングには、驚くほど心理学が用いられていて、人間心理を分析した上で 、「何となく買わされてしまう」、「買わざるを得ない」、「買うと得をする」という気持を 短時間でショッパーに抱かせて購入に導く売り方をします。 同じ品物でも そんな心理学的なアプローチがあるだけで、売り上げに30%から、時に50%ほど差が出るケースがあると言います。
オーソリティ・マーケティングはその手法の1つで、 人間が自分より権限があると見なしている人の言う事を比較的抵抗なく聞いてしまう心理を利用したマーケティング法です。

例えば道を歩いていて、見ず知らずの人に その場で3分間立ち止まるように言われた場合、銃でも突きつけられない限りは そんなことをせずに歩き去ってしまいますが、もし同じことを警官に言われたら、おそらく誰もが たとえ理由が分からなくても その場に3分間立ち止まるものと思います。
それとは別に心理学の実験で、小学校低学年のクラスで 先生が明らかに間違っていることを教えて、 それに対して生徒の1人が間違いを指摘するという状況を演じてみると、生徒達は内心先生が間違っていることに気付きながらも、 その殆どが先生の教えが正しいという側に回って、本当に正しい事を言っている生徒には加担しないという結果が出ています。 すなわち先生が薦めるものは、特に欲しくない物や必要が無いものでも買ってしまう心理と同じです。
この実験の場合、先生の教えが間違っていることを主張するだけの自信や確信の無さから、 とりあえず常に正しいこと教える立場にある先生が正しいということにしておく生徒が大多数な訳ですが、 それに反論して 大多数と戦うプレッシャーを嫌って 先生の言う事が正しいという側に加担する生徒も多いと指摘されます。 そもそも人間というものは、自分で判断できないことや、どうしたら良いのかが分からない状況においては、 自分の周りと同じことをするように その心理がデザインされているので、こうした「とりあえず 周囲と同じにしておく = 皆が買っているから自分も買う」という心理も、 マーケティングの世界では販売戦略に有効活用されているものです。

要するにNさんの通っているお教室で行われているのは、先生が生徒に対して持つパワーや影響力と、 「クラスの他の生徒さん達が買っているなら自分も買わなければ」というピア・プレッシャー(仲間からのプレッシャー)でセールスを上げるという オーソリティ・マーケティングの例で、 これは新興宗教の世界でも教祖のパワーを使ってお布施を集めたり、関連グッズを販売する際に用いられる手法です。
気乗りがしないショッピングをさせられたとしても、少なくとも最初のうちは 自分のストレスを緩和するために、 買わされたものが「役に立っている」とか、「お買い得であった」、もしくは「自分に似合っている」などと考えて 知らず知らずのうちに、 もしくは意識的に そのショッピングを肯定的に捉える努力をしているものです。

でも、現在のNさんのように既にそのショッピングがストレスだと自覚する段階になると、 Nさんがメールに書いていらしたような「このくらいの金額なら別に構わないかなと思って買ってしまう」という状況においては、 Nさんが支払っているのは 売りつけられてしまう品物の”代金”ではなく、 品物を買わずにその場に居るプレッシャーから逃れるための ”身代金” と判断するべきかと思います。 要するにNさんは オーソリティ・マーケティングのプレッシャーをお金で解決している訳で、ショッピングをしている訳ではありません。 だからこそ 買いたいものを我慢してお店から出て来ることが出来るNさんでも、お教室の即売会では 欲しくない品物にお金を払ってしまうのです。

オーソリティ・マーケティングは、先生や教祖など オーソリティがある側への信仰心が強ければ強いほど有効なマーケティング手段で、 それは熱心なファンが多いアイドルの関連グッズの売上げが高いことと同様です。 でも、ティーンエイジャーが別のアイドルを好きになると、少し前まで好きだったアイドルのグッズを捨ててしまうのと同様に、 自分に対してのパワーを持つ人よりも技量やカリスマがある人に出会ったり、その人の魅力に飽きてきた場合には、マーケティング・パワーが無くなるだけでなく、 金儲け主義を嫌って人々が離れていくのがありがちなシナリオです。 すなわち、宗教であれば信者が離れていきますし、習い事だったら生徒さんが止めてしまうことになります。

Nさんの場合は、特に先生に気に入られる必要は無いと考えていらっしゃるので、それでも物を買ってしまうのは、 そのクラスで先生の下部(しもべ)になって働く生徒さんからのプレッシャーを感じてのことかと思います。
オーソリティ・マーケティングから逃れる手段として最も有効なのは、オーソリティのパワーを認めるからこそ買わないというセオリーを展開することです。 すなわち「これは先生だから着こなせるもの」、「先生がつけているからこそ素敵に見えるもの」など、 先生の優越性を認めるからこそ買わないという姿勢を見せることで、 そうする限りは 「先生が薦めているのに、買わないのは失礼」というセールス・ピッチが通用しなくなります。
基本的には オーソリティ・マーケティングというものは、オーソリティのパワーさえ認めていれば、 物を買う、買わないは、売り上げには影響を与えても、実際の人間関係には殆ど影響しないものなのです。 したがって Nさんが「いつも物を売りつけられて嫌だ」と反旗を翻すような事さえしなければ、物を買わなくても クラスで仲間はずれになったり、先生に冷遇されるということはないはずなのです。
逆に先生のお取り巻きの生徒さんが どんなに 先生のためにグッズ売上げに貢献したとしても、 「私が居なかったら、これほどは物が売れない」的な態度を取ったり、先生の立場を脅かす野心を見せたりすれば、 先生側はたとえ表面には出さなくても、その生徒さんを内心嫌ったり、不穏分子として警戒するようになるものです。

オーソリティ・マーケティングの別バージョンの中には、「日頃お世話になっている先生が、お月謝だけの収入では経済的に大変に違いない」と気遣って、 生徒さんが特に欲しくない物でも買ってあげるという ”マーシー・バイイング(お情けの購入)”というケースもあります。 この場合は 先生側が経済的に同情される側なので、言ってみればチャリティですが、相手の顔を立てて グッズの購入という形で寄付をするもので、お金を払う生徒さんはオーソリティ・マーケティングのように先生のパワーを感じている訳ではなく、 先生の人柄が好きであったり、先生の仕事ぶりに感謝しているなどの理由から、「何かをしてあげたい」という気持ちをボランティア的に抱いているものです。

いずれにしてもNさんのケースで、Nさんが戦わなければならないのは 欲しくないのにショッピングをしてしてしまう弱さではなくて、 お教室の雰囲気に押されて物を買わされてしまう弱さです。 でも、たとえその場でショッピングをしなくても、Nさんが先生の立場さえ尊重している限りは お教室での居心地には影響しないことや、 むしろショッピングをしない方が、これからも気持ち良く習い事を続けられる ということをご自分に言い聞かせて、 お教室の即売会では 常に傍観者となるご自身のポジションを確立してみてください。
そのためには 品物に関心を示さないこと、眺めても手に取らないこと、品物を顔に合わせてみるように言われても断ることはマストです。 「買う気は無くても、品物に関心を示さないと悪い」と考えていたら、それは大間違いです。 売る側にはそんな意図は分かりませんので、品物を手に取れば興味があると思われますし、一言感想でも言おうものなら その好みに合った物を出してきます。
そういうやり取りをしているうちに、「相手の労力が無駄になるのは悪い」という気持ちが沸いてきて買い物をしてしまう人は少なくありませんし、 服でもジュエリーでも 試着などしようものなら 「自分は買いたくないから、せめて誰かに買わせよう」という人や、 「自分も買わされたから、人にも買ってもらおう」という人がよってたかって、褒めたり、薦めたりして 品物を買うように仕向けてきます。
自分のショッピングに限らず、クラスのお友達が購入したもの、購入しようとしているものにもあまり興味を示さず、褒めたり、感想を言うことを控えた方が お断りが遥かに楽になります。

最初のうちは 即売会の最中にスマートフォンと格闘するふりなどをしないと 居心地が悪いかもしれませんが、 ショッピングをしない自分に慣れてきたら、精神的なプレッシャーなど感じることなく 周囲のショッピングの様子を静観できるようになるはずです。
恐らくNさんは、「頼まれごとが断れない、断り難い」というご性格でいらっしゃるかとお察ししますが、 ここで「買いたくない物は買わない」という姿勢を身につければ、それを「やりたくない事は引き受けない」という姿勢にまで ストレッチすることはさほど難しくありません。
これを機会に 自分の気持ちに正直に周囲と関わることを学べば、人間関係も今より遥かに楽になると思います。

Yoko Akiyama

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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