Aug Week 3 2017
★ "Who Are They & Why They Became Like That?"
"白人主情主義者とはどんな人達で、何が目的なのでしょうか?"



Yokoさま、
昨年の夏からアメリカに暮らしています。
ドナルド・トランプがまさかの大統領になってしまってから、アメリカでの人種差別が酷くなったと言われていましたが、 ヴァージニア州の出来事は本当にショックで、現代版の南北戦争を見ているような恐ろしい気持ちになりました。 私はアメリカに来て、未だ日が浅いので、南北戦争に負けた南軍の将軍の像がアメリカに沢山ある理由も分からないのですが、 「歴史的な銅像を保存するべき」という銅像撤去に反対する人達の気持ちは分かりますし 黒人の人たちがその像を見て奴隷制のシンボルだと不愉快になる気持ちも理解できます。
ですが、何故そこにネオナチスのグループが押し寄せてデモをして、アンチ・ユダヤのシュプレヒコールをするのかは全く理解できません。 実は夫がユダヤ人なので、トランプ大統領になってから頻繁にシナゴーグが落書や破壊の被害を受けたり、 ユダヤ教の墓地の墓石が倒される様子をニュースで見て 心穏やかではありません。 なのに夫は大統領選挙でトランプに投票していて、もちろん今は後悔していますが、主人の友人のユダヤ教の人の中にも トランプに投票した人が何人かいて、何故ユダヤ人が自分たちを差別する指導者に投票したのかも良く分からなかったりします。

一番分からないのは、白人至上主義者と呼ばれる人達が、一体何のためにカギ十字のナチスの旗や槍や盾を持って集まって、 暴力騒ぎを起こすのかです。日本人であり、アジア人である私の目から見れば、アメリカ社会では白人が十分に優遇されているように思えるだけに、 白人至上主義者と呼ばれる人たちが何を求めているのか分かりません。

いつもYokoさんのアメリカ社会についての鋭い洞察と、それを分かり易く説明して下さるコラムを愛読しているので、 是非このことについてもYokoさんに教えて頂けたらと思ってメールをしました。 漠然とした質問でお答えが難しいかもしれませんが、よろしくお願いします。

- M -





通常、このコーナーはご質問をお受けした順番にアドバイスを差し上げるポリシーなのですが、今週はタイムリーなご質問をMさんに頂いたので 先に取り上げさせて頂くことにしました。

私も先週末のヴァージニア州シャーロットヴィルにおける白人至上主義グループの集結とそのヴァイオレンスにはショックを受けましたし、 メディアの中にはMさん同様にこれが Civil War(南北戦争)の再現だと指摘する声も聞かれていました。
私自身も 白人至上主義者の思想は理解できませんので、 彼らが何故そうなったかについての代弁をすることは出来ませんが、シャーロットヴィルのデモに参加した白人至上主義グループのリーダーの1人が 報道番組で語っていた内容によれば、2012年のトレヴォン・マーティンの事件を皮切りに、全米各地で起こった 警察による黒人射殺事件に対するアメリカ社会のリアクションが、白人至上主義者になるトリガーになっているケースが少なくないようでした。

トレヴォン・マーティン事件は当時17歳だったトレヴォン・マーティンがフロリダ州の叔母の家に滞在中の夜中に コンビニでキャンディを購入して戻る際に、 彼を不審者だと思った地元コミュニティのボランティア警備官、ジョージ・ジマーマンによって射殺され、ジマーマンが裁判で無罪になったというもの。 ジマーマンは、「フーディーを着用した見慣れない黒人」というだけの理由で トレヴォンを不審者と判断して尾行し、射殺を正当防衛と主張しており、 当時多くのセレブリティからオバマ大統領までもが ジマーマンを批判するツイートを行ったのは アメリカに暮らす人々にとっては記憶に新しいところです。
ですが白人コミュニティを中心に、ティーンエイジャーで童顔とは言え、身体が大きく、自分を尾行してきたジマーマンに腹を立てて アグレッシブに小柄な彼と揉み合っているうちに射殺されたトレヴォン・マーティンが「社会から不当に美化&プロテクトされている」として 不満を表明する人々は決して少なくありませんでした。 その後も警察による黒人射殺事件が次々と起こり、 射殺した白人警官、及び彼らを不起訴処分にする警察や司法システムに対するフラストレーションの高まりから、 「ブラック・ライヴス・マター(黒人層の命の尊重)」のムーブメントが生まれ、それが大きくなったのは周知の事実です。
しかしながら白人至上主義者達の間では それらの事件の反動から 人種平等を掲げる社会に対する怒りとヘイトが高まっていたようで、 そのことは2015年にサウス・キャロライナ、チャールストンの黒人教会で9人を射殺したティーンエイジャー、ディラン・ルーフのマニフェストにも トレヴォン・マーティンの名前が登場していたことからも明らかです。

それ以外では、大学入学システムにおけるアファーマティブ・アクションによって人種差別の意識を抱き始めるケースも少なくありません。 アファーマティブ・アクションとは、大学側が入学選考をするにあたって人種ヴァラエティを持たせるよう考慮するシステムのことで、 同システムで最も犠牲を被っているのは、人口の割合に対して成績優秀者が多いアジア人学生です。 アメリカ版の共通一次テストであるSATで、アジア人は白人学生よりも140点高いポイントを獲得しない限りは同じ大学に入学できないという アンフェアな状態を強いられていて、2014年にはアジア人グループがハーバード大学に対して、アジア人学生の受け入れが少ないと訴訟を起こしているほどです。
そのシステムで 何故白人学生が人種差別意識を抱くかと言えば、学内の人種のバランスを保とうとする理由で、自分よりも成績が劣るヒスパニック&黒人学生に対する受け入れ枠が設けられる結果、 そのせいで自分が希望の大学に進学出来ないケースが生じるためです。 事実、もし成績だけを考慮して学生を入学させた場合、白人とアジア人が大半となる訳ですが、それではヒスパニック&黒人学生が教育を受けるチャンスを失うだけでなく、 学内に人種によるエリート意識が生まれ、他の人種やカルチャーに触れて その理解を深める機会が失われてしまうので、 多数の人種が共存していかなければならないアメリカ社会にとって、アファーマティブ・アクションは必要かつ大切なシステムと見なされています。
ですが、アファーマティブ・アクションの犠牲になった白人学生の中には、「由緒ある大学は、白人社会のために、白人によって、白人が学ぶために設立されたもの」という 意識が強く、白人を優遇せず マイノリティを保護するシステムに反発するうちに、白人至上主義の思想を持ち始めるケースは少なくありません。 そうした学生は大学在学中にもインターネット等を通じて白人至上主義の思想に傾倒して集会に参加したり、何等かのグループに所属するなどして 洗脳され、活動していくケースは多いのです。

また中西部においては、製造業で働く労働者を中心に、自分たちが両親と同じ仕事をしても 両親の世代ほど豊かに暮らせない理由について、 「移民が増えたせいで、賃金の安い移民に仕事を奪われた」と考える傾向は顕著で、 社会がマイノリティばかりを優遇して、アメリカの歴史を支えてきた白人層をないがしろにしているという意見の白人労働者層が 白人至上主義に走るケースも見られます。
ヴァージニア州シャーロットヴィルの白人至上主義グループが掲げたプラカードの中には、 "White is Only Race Matters"(白人は唯一の大切な人種)というものがありましたが、 それが今回のデモに参加した白人層の考えを最も的確に表していたメッセージなのだと思います。

白人至上主義者は、近年のメディア&ソーシャル・メディアが 過敏なまでにマイノリティを擁護し、 白人をレイシスト扱いすることに不満を抱いていますので、 トランプ大統領が選挙選中から メディアをフェイク呼ばわりして批判してきた様子や、選挙会場に姿を見せた抗議者に対して「裁判費用を払うから、殴って追い出せ」と 壇上から呼びかける姿に、白人が他人種を恐れず、好き勝手に振る舞えた時代のノスタルジーを見出すケースは多かったようです。 実際のところ、現在白人至上主義者のムーブメントが盛り上がってきた背景には、選挙戦のスピーチでメキシコ人、アジア人、イスラム教などに対して 人種差別的な批判を繰り広げたトランプ氏が大統領に選出されたことが大きく影響しているのは アメリカ社会では一般的に認識されていることですし、 白人至上主義者がトランプ氏にとって貴重な支持母体であることも周知の事実です。 俗にヘイト・グループと呼ばれる白人至上主義グループの数が全米各地で急増したのは トランプ氏が大統領選出馬を宣言した2015年以降ですが、 これは決して偶然ではありません。

ユダヤ系の人々がトランプ氏に投票した背景は、富裕層は税制で優遇されることや、規制緩和によってビジネスの業績がアップすること、 不動産開発業のビジネスを営んできたトランプ氏がアメリカ全土の老朽化した橋やハイウェイなどの整備に取り組むことを期待していたのに加えて、娘婿のジャレッド・クシュナーがユダヤ教で、 娘のイヴァンカもユダヤ教に改宗していることから、トランプ氏がユダヤ&イスラエル寄りの政策を進めることを期待して投票した人々は決して少なくありませんでした。 ですが、白人至上主義のベースとなる思想はヒットラー、及びナチス・ドイツですので、 前述の報道番組に登場した白人至上主義グループのリーダーも トランプ氏について「娘をジュ―(ユダヤ教徒)のクシュナーにくれてやるなんて…」とオープンに批判していて、 大統領の家族構成が 彼らの思想に影響を与えることは無いようです。
ヴァージニア州シャーロットヴィルの白人至上主義グループのデモは木曜にスタートしていますが、木曜夜の彼らのシュプレヒコールは Mさんがご指摘の通りアンチ・ユダヤのメッセージでしたので、 南北戦争の英雄と見なされるリー将軍の歴史的な銅像を守ろうとする地元の市民のムーブメントが、 ”奴隷制=人種差別” のシンボルを守るために集結した白人至上主義グループの活動に乗っ取られたのは紛れもない事実ですし、 カギ十字の旗を持った武装デモの様子はナチス・ドイツの歴史をリピートしようとするものであって、 アメリカの歴史の保存とは全く無関係です。

報道番組に登場したアメリカの歴史専門家によれば、全米の多くの州に合計数百ものにロバート・リー将軍、およびコンフェデレーション(南北戦争の南軍側)関連の銅像が設置されているのは、 各州の地元民が南軍の英雄を称えようとしたからではなく、 1894年にテネシー州で発足された女性団体UDC(United Daughters of the Confederacy)によって 設置が働きかけられたためと説明されています。 UDCは南北戦争の最中には 南軍兵士の制服を含む様々なサプライの縫製、病院での負傷者の手当てなどを担当していた女性グループで、 戦争終結後は、南軍兵士の墓地やメモリアル・モニュメント(=銅像)の設置のために活動した団体です。
歴史の専門家によれば、UDCはメモリアル・モニュメントを全米各地に設置することで、南北戦争の歴史上の意味合いを 「南軍にとって英雄的な戦いであった」と書き換えようとする意図があったとのことで、 南軍英雄が馬に乗っている像が多いのは、馬が”彼らが支配する人間=黒人層” を象徴しているためとのこと。 多くの銅像が作られた1900年初頭には、黒人を銅像に描くこと自体が全くの論外であったため、 白人と黒人の力関係を象徴する役割を果たしていたのが馬であったと説明されています。

今回の白人至上主義グループのヴァイオレンスの発端となったヴァージニア州シャーロットヴィルのロバート・リー将軍の銅像は、 南北戦争の終了から54年後に設置されたものですが、戦後5年目の1870年に死去したリー将軍自身は 自分の銅像が作られることを好まず、戦後に南北が1つとなることを主張し、公に奴隷制を批判した人物。 それ以上に驚くべきは、南北戦争が始まる前には当時のリンカーン大統領によってホワイトハウスに招かれ、 北軍を率いるように依頼された人物。 リー将軍がそれを断ったのは、依頼を引き受けることが自分の出身地であるヴァージニアに対する裏切り行為になるためで、 リンカーン大統領も彼の忠誠心には敬意を表したというのが歴史上の事実だそうです。
ですから、リー将軍の銅像の下に白人至上主義グループが集結するというのは、歴史上の見地からも非常に間違ったコンセプトと言えるものです。

私が今回のヴァージニア州シャーロットヴィル関連の報道の中で最も興味深く読んだ記事は、 保守系右派の政治コメンテーターが執筆したもので、それによれば白人至上主義者というのは 共和党の支持母体であるキリスト教右派の保守性を拒絶し、 白人国家設立を目指す極右勢力と定義されるべきとのこと。 過去2年間にその勢力拡大に貢献したのは、トランプ氏だけなく、メイン・ストリーム・メディアも同様で、 大統領選キャンペーンにおけるトランプ氏の人種差別スピーチのニュースと共に、当時さほど大きな勢力とは言えなかった白人至上主義のヘイト・グループの存在を 過剰な脅威としてメディアが報じたことから、白人至上主義グループについてグーグル・サーチをする人々が激増。 「小規模な団体ほど 批判報道が大きなパブリシティの役割を果たす」というPR業界の黄金のセオリーが働いて、 全米各地に新たなヘイト・グループが誕生しては、そのメンバーを増やした様子が説明されていました。
ふと考えれば、ポップ・カルチャーの世界ではラップ・ミュージックがそうした社会的、人種的暴言と言える歌詞内容でネガティブ・パブリシティを獲得しながら その注目を理解に変えることによって 音楽界と社会における市民権を得た訳で、 批判報道が人々の興味や話題を煽るのは紛れもない事実です。 トランプ大統領にしても そうしたメディアの批判報道がディベートの視聴率を高め、支持者を増やす結果となって誕生した大統領と言えると思います。

白人至上主義グループは、現在彼らの活動に久々にスポットライトが当たり、大統領がその後ろ盾となるような擁護の発言をしたことから、 さらに勢いづいた声明を出していますし、前述の報道番組に登場した白人至上主義グループのリーダーは、複数の銃やナイフで武装し、 言論よりも暴力で白人の優位を勝ち取る宣言をして、「そのために今後さらなる死者が出ることはやむを得ない」とまで語る有様です。 とは言っても、全米から集結した個々の白人至上主義グループが具体的にそれぞれ何を求めているかについては 未だ足並みが揃っていないようで、 白人以外を追放、隔離することによる人種浄化を謳う人も居れば、白人優位が明確である限りは有色人種が同じ社会に下部となって存在するべきという人も居ますし、 白人社会が米国から独立した国家樹立を目指すべきとの声も聞かれます。

Mさんがおっしゃる通り、白人層というのはアメリカ社会ではマイノリティに比べて遥かに優遇されている人種ですが、 ヘイト・グループに所属するという人々は、自分の怒りのやり場を求めている場合もあれば、 孤独な自分が所属出来る拠り所を求めている場合もありますし、ある種の選民意識、すなわち自分が選ばれた人間のグループに属しているという優越感を 抱くために属するケースもあります。戦う相手を持つことで生きがいを見出す人も居れば、自分が信じる思想の正しさを立証するための仲間を必要として ヘイト・グループに合流する人も居ます。

同様のネオ・ナチスの復活はヨーロッパでも見られるムーブメントで、アメリカだけの問題ではありませんが、そのメンバーが19歳、20歳と どんどん若年化しているだけに、ヴァージニア州シャーロットヴィルのようなヴァイオレンスが 今後続いたとしても不思議ではないというのが私の考えです。 したがって現在、シャーロットヴィルの二の舞になるのを防ぐために、コンフェデレーション関連の銅像撤去を急ぐ州政府が増えている現状は 容易に納得できることですが、白人至上主義者の本当の目的は銅像を守ることではないだけに、 銅像の撤去が問題解決に繋がる訳でもないのもまた事実です。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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