Feb. Week 4, 2017
★ "Why Deporting Illegal Immigrants Is So Bad?"
何故アメリカの人々は、不法移民の国外追放に反対するのでしょうか?



秋山曜子様、
友達に教えてもらって以来、このサイトを2年くらい読んでいると思います。 あまり外国に縁がない私ですが、アメリカやニューヨークのことが日本のメディアとは違う形で分かって、とても面白いです。 特にこのコーナーは日本に居ると解決できないと思っているような質問に対して、秋山さんが表面的な慰めとか気休めではなくて、 ズバッと解決のアドバイスをされている様子に驚いたり、感動したりしながら読んでいます。

私が今日メールをしたいと思ったのは、アメリカについて分からない部分があるためです。
トランプ大統領になって、イスラム教徒のアメリカ入国が禁止されたり、不法移民の国外追放が行われるようですが、 イスラム教の人々を全てテロリストかもしれないと決め込んで入国させないのが悪いというのは私にも理解できます。
でも、不法移民は本来アメリカに居るべきではない人々ですから、どうしてそんな人々を国外に追放することに アメリカ人は反対するのでしょうか。 お金があったらきちんとしたルートで入国すると思うので、不法移民は貧しい人が多いと思いますし、 そういう人たちは犯罪を犯さなかったとしても、国民の税金の負担になると思うのですが…。
トランプ大統領は不法移民を追放したり、メキシコとの国境に壁を作ることを公約して当選したと言われていますが、 抗議デモなどが起こっている様子を見ていると、それに反対している人たちがとても多いのが良く分かります。 でも不法な人を追放するのが悪いというのは、日本のような基本的に閉鎖的な国に居ると 良く分からない理論です。
アメリカ事情に詳しい秋山さんに、実際のところをご説明いただけたらと思ってメールをしています。

他の方達の深刻なお悩みとは全く違う質問でお恥ずかしいのですが、教えていたたけると嬉しいです。 よろしくお願いします。

- J -





Jさんと全く同じ質問は、昨年の大統領選挙の最中に 新大統領の移民政策に反対する私の様子を不思議がった両親にも 尋ねられたことで、何故合法移民の私が不法移民のサポートに回るのかが、やはり両親には不思議に思えたようでした。
確かにこれまで私が合法の移民ステータスを維持するために弁護士に支払ってきた費用や、VISA取得のためにしてきた 厄介な手続きやその手間、労力などを考えると、それらをせずにアメリカに居座って、税金の恩恵を受けている不法移民に対して アンフェアだという意識が全く無いかと言えばウソになります。
でもアメリカという国の歴史を考えると、俗に”インディアン”、”アメリカン・インディアン”と呼ばれるネイティブ・アメリカン以外は、 アメリカ人というのは誰もが移民で、現在移民を差別しようとしている人々とて、その祖先は全員移民なのです。
そしてそんな移民のパワーが築いてきたのがアメリカという国で、 移民のハードワークが国の原動力になってきた状況は今も昔も変わっていません。 そもそも「アメリカン・ドリーム」という言葉は、 ほぼ一文無しでこの国にやってきた移民が、ハードワークで成功を勝ち取ることを意味する言葉です。

その移民の中には不法入国をして、後に合法ステータスを獲得した人も非常に多い訳で、 そんな移民に対して分け隔てなくチャンスを与えることによって、大きな見返りを受けてきたのがアメリカ社会なのです。
不法移民の追放を掲げるトランプ政権の要職に任命されたメンバーの中には 不法移民をハウス・キーパーとして雇っている人も居て、 お金がある人々ほど 安い賃金でもハードワークを厭わない不法移民を何らかの形で雇っているケースは多いのです。 また不法移民の中には 親に連れられてこの国にやってきただけで、自ら不法移民になる道を選んだ訳では無い人々も 含まれています。そうした人々は国外追放されても、戻された国に生活基盤が無く、知り合いも居ないので、 人道的な立場からも 単に不法移民だからといって国外に追い出せば良いという訳ではありません。

かく言う私自身は学生ヴィザから、ジャーナリスト・ヴィザを取得して、その後自分で会社を設立しましたが、 その設立も大変でしたし、クレジット・カードの手続きが出来るようにするのも審査が非常に厳しく、 加えて自分の会社から自分にヴィザを出すために、ビジネス取引の証明が何通も必要でした。
私は当時から日本の企業とは取引が無かったので、そんなビジネスの証明を出してくれたのは、 トルコ、韓国、イスラエルなど様々な国からやってきた移民のビジネス・オーナーたちでした。 彼らも会社設立とヴィザ取得の手続きがいかに大変かを自分の経験から熟知していたので、 とても気持ち良く助けてくれて、私はその時に この国では移民同士が助け合わなければいけないことを学びましたしたし、 その恩恵を受けたことに感謝もしました。
そんな思いを経験して、ニューヨークのような人種の坩堝に長年暮らしていると、 いかに人種差別や宗教差別が恥ずべき行為であるかという意識がとても強くなってきますが、 同じ思いは現在新政権の移民政策に反発する人々も強く抱いているのだと思います。

特にトランプ政権下では、不法移民の追放に加えて、イスラム教徒に対する入国規制、 引いては合法の移民も制限する方向に向かおうとしている訳ですが、 そうした特定の人々や宗教の国外追放を謳って誕生したトランプ政権になってからというもの、 ユダヤ教の施設や墓地に対する嫌がらせや器物損壊は今年だけで70件を上回っていますし、 南部の黒人層も人種差別の嫌がらせが以前よりも酷くなったことを訴えています。 すなわちトランプ政権の政策が その支持者に人種差別や宗教差別にGOサインを出す形になっているのが 現在のアメリカで、アンチトランプ派がその移民政策に猛反発しているのは、 人種差別や宗教差別に対する抗議でもあります。

移民と異人種にオープンなニューヨークでさえ、トランプ政権誕生直後には イスラム教徒の女性がバスの中でヒジャブを剥ぎ取られて 「この国から出ていけ!」などとなじられる事件が起こっていましたが、 そうしたイスラム教で嫌がらせを受ける人々の多くは、実際にはアメリカ生まれのアメリカ人であるケースが少なくありません。 でも人種差別、宗教差別、LGBTを含む性差別をする人々というのは IDなどチェックすることはありませんので、 見た目で気に入らないというだけで攻撃的な言動や暴力などに及びます。
したがってこの先、何処かのアジアの国がアメリカの差別対象になった場合、 アメリカ人にはアジア人の国籍の見分けなどはつきませんので、 アメリカ国籍を取得した日本人が そんなバッシングの対象になったとしても全く不思議ではないのです。
要するに 差別というものは 社会において ”All Or Nothing” と言えるもので、 徹底的に全てを否定しない限りは、全てがOKになってしまうものです。 特定の人種やステータス、宗教に対してのみ肯定したり、行ったりすることは、社会においては不可能なのです。

アメリカは第二次大戦時にホロコーストを逃れたユダヤ人の移民を多数受け入れましたが、その一方で パールハーバーの奇襲を受けて、日系のアメリカ人が収容所送りになったという歴史があります。 9・11のテロの際には、その当時のジャパニーズ・アメリカンに対する差別を例に挙げて、 イスラム教徒に対する冷静な対応が呼びかけられていた訳で、 日本人とてこの国では差別の対象になった歴史があるのです。
ですから私はアメリカに来てからは差別というものには 例外なく反対の立場を取るようになりましたが、 アメリカという国は政治を通じてだけでなく、ハリウッドの映画やドラマ、音楽、様々なプロダクトやサービスを通じて 世界中に強い影響を与えています。ですから他国の事情と侮らずに、 そこで起こっている問題の背景やムーブメントの事実関係を理解することは、一社会人としてとても大切なことだと思います。

Yoko Akiyama

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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